« 川戦:応仁乱編⑩松平信光の願文 | トップページ | 川戦:『将軍』寺編①プロローグ »

2008年2月21日 (木)

川戦:応仁乱編⑪西三河新秩序

 1486年(文明十八年)信光明寺への願文にはもう一つ重要なことが書かれています。『安祥と岡崎が平和裡に手に入ったのは仏の加護の賜物』であると。安祥については大久保忠教の三河物語に書かれたあらましを書かせていただいております。踊りの一団が本当に本願寺教団の手になる者であるなら、この仏の加護もかなり生々しい描写になりますね。岡崎を守っていたのは西郷頼嗣という人物ですが、岩津や安祥から土呂、深溝に向かうならば、岡崎は押さえておかなければならない重要拠点に違いありません。
 そこを平和裡にとることができたとするのはどういうことでしょうか。思い浮かぶのは、戸田宗光の田原城奪取です。一色政照は応仁の乱中には京にも出陣していて渥美郡は留守にしていました。そこを同じ西軍の武将の戸田宗光が固めてしまって、帰ってきた一色政照には居場所がなくなっていたのですね。そして帰ってきた一色政照を渥美郡大草に隠居させて自らはその養子分となりました。
 松平信光は西郷頼嗣に対して同じことをしたとすれば、『平和裡』という言葉の意味が見えてくるのではないかと思います。西郷頼嗣もまた京に在陣しており、その留守をついて松平一族が乗っ取ったと思います。西郷頼嗣の岡崎が東軍方、西軍方だったのか、安祥の城主が誰でどちら方についていたのかは不明ですが、そのいずれであっても上手く留守をついて占領したということなのでしょう。

 無論、平時に会ってそういうことをすれば、討伐を受けることは間違いがありません。しかし、この時三河国には守護は不在でした。文明十年に一色義直が三河放棄を宣言した頃、細川成之もまた三河守護を辞しております。後任の守護は不明です。おそらくはこれ以後、三河は守護不在の国となったと思われます。

 戸田宗光は応仁乱時には西軍についたと言われていますが、乱後には主筋の一色家から渥美郡を奪い、二連木に城を建て、東三河の牧野氏と拮抗対立したといいます。勉強が足りず、応仁乱中の三河国の動向は一色家と吉良家の動き以外はあまり詳しくわかっておりません。
 松平信光は1488年(長享 ニ年)に没します。その時までに領した拠点に自らの子息を置き、分家としました。信光の妻が多産だったのか、数多くの子供たちがいます。

 子息のほかに、一族ではないものに松平を名乗らせた者もいたそうで、松平一族は信光の一代で幅広い拠点を持つに至ります。興味深いのは本願寺教団の拠点である大浜、鷲塚、小川、野寺、佐々木、針崎、土呂が入っていないことですね。これらの地は南北に伸びた松平の拠点を東西に分断するように伸びております。松平一族と本願寺教団との間に約束が取り交わされたということでしょう。後になって、野寺、佐々木、針崎、土呂については、不輸不入の権が設けられ、領主の権利の及ばない場所とされました。後年、日蓮宗徒である大久保氏の一族も織田方に追われてここに匿われて無事を得たというエピソードもあります。
 そして、松平信光の婿である戸田宗光は知多・渥美両半島を押さえました。三河国は西尾城から現矢作古川沿いに勢力を持つ吉良氏を戸田、松平、本願寺の三派勢力が囲む形になります。吉良一族が弱体化してゆくのも、止むを得ざるところでしょう。東には牧野氏が台頭し、さらに東には今川氏が控えています。三河の国の様相は応仁の乱開始以前とはおよそ異なる物になってしまいました。それはある意味、足利義教が一色義貫を誅殺した時に、構想した有力御家人の息のかからない国人衆の台頭です。しかしながら、応仁・文明の乱、そしてこの後に起こる明応の政変によって室町殿の権威は失墜します。室町殿がその後のアクションとして企図したと思われる新勢力の掌握を果たすことができず、各勢力は自立の道を進むことになります。

 戦国の濁流の中、三河の各勢力は離合集散を続け、徳川家康の代になってやっと最終的な統一の時代を迎えます。但し、それまでの過程はめまぐるしく、家康にしても容易に三河の諸勢力を御することが出来たわけではありませんでした。その経過を次稿以降に書き進めてゆきたいと思います。

|

« 川戦:応仁乱編⑩松平信光の願文 | トップページ | 川戦:『将軍』寺編①プロローグ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/164985/40084000

この記事へのトラックバック一覧です: 川戦:応仁乱編⑪西三河新秩序:

« 川戦:応仁乱編⑩松平信光の願文 | トップページ | 川戦:『将軍』寺編①プロローグ »