« 川戦:英雄編⑧織田達勝の上洛 | トップページ | 川戦:英雄編⑩実円Ⅱ »

2008年7月23日 (水)

川戦:英雄編⑨実円Ⅰ

 1530年(享禄三年)の松平清康の尾張征西、それに引き続く織田達勝の上洛についての考察をとりすすめております。そのキーパーソンとする人物が本稿で紹介する実円です。

 彼は本願寺第九世法主実如の息子で、土呂本宗寺の住持です。蓮如の孫に当たる人物なんですね。蓮如の家系図を見ると、一定の法則で名前がつけられていることが判ります。まず、法主(留守職)は○如とつきます。順如や円如は法主になってはいませんが、嫡男であり法主が入寂するまえに、亡くなったためこの法則に従います。そして、嫡男以外の息子には○如の○の字を与えております。蓮如の場合ですと蓮乗、蓮鋼、蓮誓などの『蓮』の字ですね。基本的に法主は終身ですが、蓮如は生前に寺務を実如に委ねています。その間に作った蓮如の後妻の息子たちに実如は『実』の字を与えています。実賢、実悟、実従ら蓮能の息子たちです。実如の嫡男は円如でした。円の字が次世代の偏諱になるはずだったのですが、円如は父実如より先に亡くなります。この円如の弟が実円です。彼は父実如の『実』と兄円如の『円』の両方の偏諱を受け継ぎ、本願寺教団の中心を担うべく期待された人物であったと言うことが出来ます。
 この実円はもともと三河国土呂本宗寺の住持でしたが、実如の子であるという連枝の血統を本願寺教団は欲しておりました。細川政元との連携が敗れ、細川高国のもとで本願寺九世法主実如が逼塞していた1515年(永正十二年)に実円は播磨国英賀(あが)に本徳寺を創建します。これは伊勢国長島願証寺と併せて双璧と言うべき水砦寺院でした。実円は三河国土呂本宗寺と播磨国英賀本徳寺の住持を兼ねました。

 さらにその十年後に実如が入寂します。その臨終の床の実如は近親者五名に遺言を残し、孫の証如を補佐するように言い残します。その五名とは、蓮如の子である近江国顕証寺(及び伊勢国願証寺)の蓮淳、加賀国本泉寺の蓮悟、実如の子である三河国本宗寺(及び播磨国本徳寺)の実円、蓮如の孫である加賀国松岡寺の蓮慶(蓮綱の嫡子)、加賀国光教寺の顕誓(蓮誉の嫡子)の五名で彼らの事を顧名の五子といいます。
 実如死後の体制は山科本願寺に最も近い所にいる連淳が証如の一番の側近として采配を振るいます。連淳は証如の大叔父であると同時に外祖父にもあたるので、実質的な教団中枢にいたと言っていいでしょう。蓮悟、蓮慶、顕誓は加賀国三ヶ寺の住持として加賀国の経営に専念しており、この中枢から少し離れた所に降りました。その間を埋めていたのが実円です。実円は顧名の五子として選ばれてから、証如の後見の一人として連淳を支えました。実円の後を継ぐことになる実証もまた、証如の偏諱を受け継ぎ、二代にわたる法主の諱を持つ名門の血統を誇りました。実証に期待するところは実円と同じ法主の補佐であり、これは連淳が息子の実慧を長島願証寺於いたのとは対象的に、実証も山科を中心に活動させたという所作なのではないかな、と私は思っております。

 信長公記がいいます。『家康公、いまだ壮年にも及ばざる以前に、三河国端に土呂・佐々木・大浜・鷲塚とて、海手へついて然るべき要害。富貴にして人多き港なり。大坂より代坊主入り置き、門徒繁盛候て、すでに国中過半門家になるなり』
 国中の人々の過半が門徒でありながら、中心寺院の土呂には住持がおらず、本願寺が派遣する代坊主が采配を振るう形がこの時に出来たわけです。
 この期間、三河国の本願寺教団の勢力圏には松平の分家がおかれ、西三河の門徒達は松平党の傘下に入ってゆくわけです。但し、土呂本宗寺と三河三ヶ寺は領主も立ち入れない禁域となっていたことが三河物語にあります。(三河物語の記述は松平清康の子、広忠の代の話ですが、すでにこの頃もそうであったろうと思われます)
 後世に残る蓮如の逸話などを拾い集めてみると、蓮如は巧みな話術を持ち、どこにでも現れて人の心を掴んでゆく。そんな布教スタイルが見受けられます。しかし、実如以後、本願寺教団は法主とその一族の権威を高めてゆく方針に転化してゆきました。
 三河国門徒武士達は松平家の家臣団の一角をなしてゆくわけなのですが、彼らにとって主人である松平清康とは別にもう一人の主人がいたことになります。そして、蓮如の一族という権威は高まるだけ高められておりました。

|

« 川戦:英雄編⑧織田達勝の上洛 | トップページ | 川戦:英雄編⑩実円Ⅱ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/164985/41944900

この記事へのトラックバック一覧です: 川戦:英雄編⑨実円Ⅰ:

« 川戦:英雄編⑧織田達勝の上洛 | トップページ | 川戦:英雄編⑩実円Ⅱ »