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2008年7月17日 (木)

川戦:英雄編⑧織田達勝の上洛

 前稿において、松平清康は叔父松平信定とともに尾張攻めをした話を書きました。その理由として尾張国上下四郡の守護代の戦いに借り出されたという考察をしましたが、本稿ではさらに踏み込んでみたいと思います。ここから数回にわたって一つの仮説を構築します。それは通説とは異なり、歴史研究者の解釈からも少し離れたものです。

 三河物語曰く、『(松平清康が)御年二十歳の頃に尾張国にも手を出すようになり、岩崎・品野という郷を攻め従わせなさった。』。ここで言う御年二十歳とは1530年(享禄三年)のことになりますが、その時織田大和守達勝は尾張国におりませんでした。
 巌助往年記(ごんじょおうねんき)という真言宗醍醐寺の塔頭理性院の住僧である厳助の日記によると、1530年(享禄三年)の五月に織田達勝が三千の兵を率いて上洛したという記録があります。「尾州より織田大和守上洛、人衆三千計り、美麗也云々」が巌助往年記の記録の全文であり、この上洛の目的や、上洛までの経路、戦闘有無など詳しいことは全く不明です。斯波氏の代理とか、軍事目的ではないとか、言われていますが、それとても具体的な根拠のある話ではありません。

 この時都に幕府はありませんでした。1527年(大永七年)時の将軍、足利義晴と管領細川高国は細川晴元の部下である三好元長と摂津国人柳本賢治らと洛西の桂川において戦って敗れ、近江国朽木に落ち延びます。細川晴元は和泉国堺まで来ておりましたが上洛をせず、足利義維を擁して堺に幕府を開きました。その後京では三好元長と柳本賢治が主導権争いをします。織田達勝が上洛したのは、その抗争で柳本賢治が勝利し、三好元長は京を追われた時期でした。
 播磨国まで流れていた細川高国は、細川晴元陣営の内部分裂の様子をみて都を奪回しようと試みます。それを察知した柳本賢治は足利義晴と和睦し、細川高国の名分を失わせようと、足利義維と細川晴元に打診しますが、つっぱねられています。やむを得ず柳本賢治が細川高国がいる播磨へと出陣しようと準備をしている最中に、織田達勝が現れたのです。柳本賢治は織田達勝上洛の翌月の1530年(享禄三年)六月二十九日に播磨で陣没します。細川高国と組んで備前三石城を拠点とする浦上村宗との戦いの最中のことでした。

 織田達勝の上洛が、『斯波氏の代理』とか『軍事目的ではない』といわれるのは、①織田達勝本人に上洛する動機が希薄であること、②三千もの兵を率いて上洛していながら、合戦を行った記録が残っていない、③『美麗也』と表記されているこの三つの理由からであるように思われます。
 特に『斯波氏の代理』は堺幕府の足利義維の母は、斯波一族の出とされています。達勝に明確な動機はうかがえないことは確かなのですが、斯波義統を足利義維の味方としてみることは可能であるということからの推測ですね。織田達勝軍の動きは上洛、帰還ルートを含めて不明です。仮に柳本賢治の軍に加わって浦上村宗と戦って帰還したとしても矛盾は生じません。また、一人だけ帰還して、三千の兵は別の軍団に編成されたのだとしても、『史料上』の問題はないわけです。ただ一点、織田達勝はこの上洛の二年後の天文元年、尾張国で織田弾正忠家の信秀と抗争をしております。これは信秀が達勝の上洛に反発したためと説明されますが、その根拠もまた希薄であると言わざるをえません。

 よって、この上洛に関する考察については、かなり大胆に仮説を打ち出すことが可能なのですね。

 ただ織田達勝の三千の兵が上洛したことだけは、巌助往年記を信じる限りにおいて事実です。この時期の京の動向を調べる時の必携資料というべき、実隆公記という三条西実隆の日記があるのですが、この時期、1530年(享禄三年)五月の条はなぜか欠落しております。頼りになるのは巌助往年記の信憑性だけではありますが、本稿ではこの記事を信じることで取り進めます。

 本来、尾張からこれだけの軍勢が京に移動すれば、内外にそれなりのインパクトを与えるはずです。
 後年、足利義昭を擁した織田信長が兵を引き連れて上洛したときには、斎藤龍興を美濃国から追い出し、北近江の浅井長政と同盟を結び、南近江の六角承禎を撃破する必要がありました。
 それに引き比べると、織田達勝の上洛は三千もの兵が動いたにもかかわらず、隠密行動かと思われるほど謎に包まれています。これについて考えるなら①動機、②名分、③上洛ルートを補う必要があるでしょう。

 その前ふりとして、上洛の情報の発信地である醍醐寺の位置に着目してみます。醍醐寺は今の伏見区、東山の東南にあり、洛外に位置します。そして醍醐寺の真北には山科があります。そこには本願寺がありました。

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