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2009年2月24日 (火)

川戦:崩壊編⑧人質から人質へ

 今川義元が吉良氏を攻めたのと同じ年、1549年(天文十八年)の三月六日。松平広忠が死にます。三河物語では病死のように書かれています。私としてもそれを信じたいところですが、種々の史料は暗殺であることを明記しておりますし、定説となっています。
 犯人は岩松八弥。最近読んだ学研新書の『桶狭間合戦の真実』では、広忠殺しの岩松八弥を成敗した植村氏明の家譜(寛政譜)においては、かれは浅井氏もしくは、蜂屋氏出身であると書かれているとありました。浅井も蜂屋も織田家家臣にその姓を持つ者がおり、これは織田からの暗殺を示唆したものではないか。事に八弥とは蜂屋氏を意味しているという見解がありました。興味深い指摘です。
 確かに織田家に浅井という氏をもった家臣はおりますし、織田信長の黒母衣衆に蜂屋頼隆という者がいます。さりながら、浅井という地名は矢作古川の起点である荒川という在所の対岸にもあったりするのですね。確かに蜂屋頼隆は信長の家臣ではあるのですが、彼はどうも譜代ではなさそうなのですね。もともとは土岐氏や斎藤氏に仕えていたといわれています。蜂屋氏の本貫地は美濃国東部の山間部にあるのですね。ここ出身の人が頼隆以外にも流れていたということはありそうですが、同じく三河国にも六名村出身の半之丞貞次という槍の名手が蜂屋姓を名乗っています。なので、浅井、蜂屋という言葉がすぐに尾張国に結びつくのかどうかについては、より深い検討が必要なのではないかと考えるところです。

 尾張国においては、竹千代を傀儡の当主とすべく様々な画策をしました。酒井忠尚などの松平中枢に近い家臣達を味方につけるだけでなく、一門衆からも合歓木松平信孝、佐々木松平忠倫、桜井松平清定・家次らを離反させ、松平広忠を押籠めようと画策しました。それを跳ね除けたのは広忠の意思だけではなく、今川義元と太原崇孚の戦略眼にあったと思われます。
 今あげた織田方の寝返組はことごとく、跳ね除けられすでに織田信秀は自分自身で今川軍と後詰合戦を戦ってしまいました。代理戦争をやってくれる不満分子は使い切っていないのです。
 となれば、織田側の戦略を広忠押籠めから一段あげることが考えられてもおかしくはありません。清康のように暗殺することです。今川家と松平家の関係を絶つ為には、今川家に依存している松平広忠を排除する。しかし、この判断は遅すぎです。やるなら小豆坂の前に行うべきだったでしょう。
 いわば、竹千代拉致を思い立った『戸田康光』のように、自爆の危険性のある策でした。これは結果として今川を利しています。なので竹千代拉致や広忠暗殺も、実は今川義元と太原崇孚の鬼手なんじゃないかとも考えてしまうのですが、これはさすがに結果からものを見すぎかもしれません。
 そう思わせられるだけ今川家のフォローが的確かつ強力なのです。広忠がいなくなった岡崎城に竹千代を担いだ織田信秀が入城なんて、今川義元にとって悪夢以外にないでしょうし、三河奪取がほぼ完了しつつあるこの段階でそんなリスクを犯す必要などないと思います。

 広忠の訃報を聞くや否や、今川義元は太原崇孚を岡崎城に入城させます。そして一気に安祥城に攻撃をかけました。安祥城を守っていたのは織田信広。信秀の長子です。彼は突然の今川軍の猛襲にたえきれず、捕虜となってしまいます。安祥城は森城という別名のある森に囲まれた城です。障害物が多く見通しも悪そうですね。そんな城から城主を捕虜にするということは、余程大軍で囲んだものと思われます。それでも激戦だったらしく、この攻防において本多忠豊の子である本多忠高が戦死しております。安祥城は本多親子にとっての鬼門だったようです。しかし、その勇猛さはその子孫である本多平八郎忠勝に受け継がれ、現代において『戦国無双』のゲームで大活躍するに至ります。
 そして織田信秀と交渉して竹千代と織田信広を交換しました。この一連の動きは鮮やかで、これによって今川家は三河国完全掌握の総仕上げとしました。
 松平家臣達は竹千代奪還に沸き立ちました。本多忠高が死を賭して安祥で戦ったのも、竹千代奪還が望みだったからです。しかし、今川義元はそれを許すほど甘くはありませんでした。今川義元は岡崎城に自らの配下を城番として置き、竹千代は人質として駿府に送られることになりました。織田の人質から今川の人質です。

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