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2013年5月31日 (金)

川戦:安城合戦編⑫漢字パズルⅡ(無の読み方)

図表2:32文字目:「被相談」の「被」
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この文字は、刊本においても、安城市史が「被」としているのに対し、戦国遺文・小田原市史は「無」と読んでいて、解釈が分かれております。朝野旧聞ほう藁と古証文三種については、それぞれ微妙に字形が違っていることが判るかと思います。

図表3:判読辞典「無」と「被」
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比較対象として、以前も出したものですが、近世古文書判読辞典(柏書房刊)所載の「無」と「被」の字体を出させていただきました。それぞれいくつかの字体がサンプルとしてでていました
が、肉筆本の字体にもっとも似ているものをセレクトしております。それぞれの字体に似ているものを順番に並べると以下のようになります。

「無」<古(酉)≦古(和)<古(不)≦朝野<「被」

 比較は微妙ですが、朝野の字体よりも、古証文の字体の方が、比較対象の「無」の字によっているように見えます。

 史料パズルと題した前稿にて、朝野の北条氏康文書が不完全であった理由を乱丁のある古証文をそのまま書写したためと書かせていただきました。国立公文書館蔵の内閣文庫にあった三部の肉筆本古証文のうち、二冊が乱丁状態のまま保管されております。このことから、この他にも存在しただろう古証文の書写本もまた、乱丁状態のまま、筆写されていたでしょう。
乱丁状態が正されている大久保酉山旧蔵本も冊数・巻数が同一形態の本がないことから、これもまた元は乱丁本であり、後になってそれを修正したものかと思料します。

図表4:「無」の字体比較
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032文字目が「無」と判読することが妥当であるか否かを考えるために、活字本で他に「無」として判読されている文字とを比較しておきました。対象になるのは111文字目にある「無余儀」(余儀なき)と142文字目の「無止候間」(止むこと無く候らわば)の「無」です。

一見してわかるのは朝野では32文字目と111、142文字目では、字体の構造そのものが異なる文字として認識されていることです。すなわち、32文字目は「被」として、111、132文字目は「無」として朝野は読んでいるもととして考えて差し支えないでしょう。

対して、 古証文肉筆本の三種の111、132文字目は、いずれも上記サンプルの「無」の構造を残しております。更に言えば、古(不)の32文字目は他の2書と異なり、サンプルの「被」の構造を併せ持っているともいえます。

安城市史の解説においては以下のようなコメントが付されております。
>「被相談」の「被」を「無」の誤写とみる説もあるが、文字自体は「被」である

朝野のみを見た時点では私自身も、それを否定しきれませんでしたが、肉筆本を観察して当該文字はむしろ「無」と読んでもよいように判断いたします。

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