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2014年1月30日 (木)

中漠:洛中幕府編Ⅰ⑬夢窓との距離

 足利直冬をして長門探題に据えるべく、高師直は執事を罷免されましたが、その直後中国地方の守護、元守護達を集めて足利尊氏邸を高師直は囲みました。その多くが足利直冬の長門探題就任で影響を受けた、中国地方の元守護や守護達だったわけですが、そうでない人々もいました。土岐頼康、頼兼、頼雄ら、土岐一族です。時の土岐氏の惣領は土岐頼康でしたが、彼の先代の頼遠は、東北軍団を引き連れてきた北畠顕家を青木ヶ原で撃退した一大武勲の持ち主でもありました。その功に驕ったのか、酒に酔った勢いで光厳上皇の乗った輿に向かって矢を射かけるという不敬を働いてしまいます。佐々木導誉の時は幕府も比叡山延暦寺を挑発するという目的があったので、導誉の罪はうやむやのうちに不問に付されましたが、北朝の上皇は征夷大将軍足利尊氏の身分を保障するものであり、かつ、幕府権力の源泉でもありました。当然、直義は頼遠の逮捕を命じます。酔いがさめた頼遠は美濃国に逃げ帰った後、臨川寺に夢窓疎石を訪ねてとりなしを求めますが、夢窓疎石はこれを幕府に引き渡します。土岐頼遠は結局斬罪に処されました。土岐一門は存続を許されましたが、足利直義と夢窓疎石に恨みを含むことになります。
 中国地方の守護達だけなら直冬探題の就任撤回だけですんだかもしれませんが、直義と夢窓疎石に恨みをもつ土岐一門衆がこの決起に合流することによって、要求が足利直義弾劾にエスカレートしてしまったようです。

 その他、その中にいるべき人物が一人ばかりいませんでした。赤松円心入道則村です。彼もまた、バサラ大名の一人であり、一見、足利直義よりも高師直に利害が近いように思われますが、この時点においては高師直よりも臨済宗の僧に近い立場にいたのではないかと思われます。

 赤松円心は紫野大徳寺開山である宗峰妙超に援助を行い、赤松氏は大徳寺の檀越になっていました。宗峰妙超は浦上氏出身の僧であり、浦上氏は赤松氏の被官でもあり、深い関係にありました。
 長門探題は現在の下関市にあり、日元貿易で得た物資が集まる博多から畿内に物資を送ろうとすれば、必ず関門海峡を通ることになります。渡来・留学僧はその利権にコミットしていたと考えるべきでしょう。
 関門海峡は極めて狭いので、臨検を非常に楽に行える海域です。よってここを差配されるということは、対元貿易の実利を差配するに等しいということになります。赤松円心は播磨国守護ですが、その長男は摂津国守護となっておりました。山陽道の海路の東部を赤松親子で経営することになっていたわけですが、足利直義派に関門海峡を抑えられてしまうとなれば、これと対立すれば海路の利潤が減りかねません。元との交渉においては、禅僧の交流が活発に行われていたのですから。
 足利直冬を長門探題にする事は、天龍寺建立、全国一寺一塔建立運動の延長線上にある政教一致の興禅
政策の一環でしたす。そればかりではなく、九州にはまだ懐良親王、菊池氏、阿蘇氏等の南朝の残党勢力が肥後国を中心に根を張っており、筑前国博多を拠点とする一色範氏、仁木義長がこれと対峙しておりました。足利直冬はその後方に強力な基盤を築き、一気に九州を制圧するためのテコ入れであり、それが上手くいけば元帝国との通商や仏教交流を強化する道が開けます。

 ただ、禅宗のパトロンとしての赤松円心にとって、足利直義が敷いた政策は必ずしも居心地の良いものではなかったようです。1341年(暦応四年)に、光厳上皇より足利尊氏に五山の再選抜を任されます。尊氏はこの仕事を弟の直義に丸投げするわけですが、直義は五山の上位にあった大徳寺を十刹の第九位にまで落としてしまいます。京都五山の第一は夢窓疎石が住持を務める南禅寺だったわけですね。大徳寺はこの扱いに甘んじることを潔しとせず、十刹位を辞退し、自らを禅林体制の外にあるもの、林下と称するに至ります。
 また留学帰国僧の雪村友梅を1337年(建武四年)播磨国金華山法雲寺の開山として招きます。彼は若いころに元に留学し、相当な苦労をして禅宗を身に着けました。老境に入り帰国した時、彼は中風にかかっていたのです。そんな彼にとって法雲寺は余生の場と思っておりましたが、足利直義は興禅活動の為、雪村友梅の病身を押して京都万寿寺やら建仁寺の住持をやらされ使い潰したりもしておりました。
 故に、決してもろ手を挙げて足利直義を支持していたわけではなかったようです。高師直がクーデターを起こして、足利直義が政務から身を引くに当たり、その後は足利尊氏や高師直達と行動を共にするようになったわけです。

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