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2014年3月25日 (火)

中漠:洛中幕府編Ⅱ⑭執事から管領へⅡ

 足利尾張守家の長男は戦死しており、次男が捕虜となって候補から外れた時、世間の耳目は三男氏頼に集まりました。佐々木導誉にとっても娘婿の栄達は自らの立場の強化につながりますからその風説を歓迎しており、氏頼本人も半ばその気になっていたようですが、それを足利尾張守高経はひっくり返して、四男の義将を執事に任命します。これには氏頼や導誉も驚かざるを得ないことでした。  足利尾張守高経が想定していたのは、執事はあくまでも足利家の家政のみを見て、実質的な政務は足利直義のような一門衆筆頭が見る形でありました。なので、政務は自分が見て、足利尾張守の家督は氏頼に譲るつもりだったのでしょう。  なぜ、こんな複雑な形を望んだかと言えば、足利直義と高師直のような対立構造を二度と起こさない為であったと思われます。足利尾張守高経は一門衆筆頭であり、執事の父の立場から、将軍と執事ににらみを利かせることができるのでした。  この体制で宙ぶらりの立場におかれてしまったのが、氏頼でした。彼は若狭国守護の座を与えられており、兄が南朝方の捕虜になってしまったという不面目な脱落をしてしまった今、父高経の後継候補の最右翼であった筈なのですが、彼自身には若狭守護以上の何の権限ももたらされなかったのです。彼は足利尾張守家の家督の筈ですが、惣領の座は依然として高経の手にあり、弟の義将は将軍の意向を直接受けて氏頼を含む全国の諸侯に号令をする権限を持ってしまったのです。舅の顔を立てる為に兄として弟に影響力を行使しようとしても、弟の背後には父が後見しており、それは叶わないことでした。  同じく割を食うことになったのが、佐々木導誉です。プライドの高い高経は帰り新参のみであるが故に、自身が執事職に収まること自体は色々と理由をつけて断ってくるだろう、そして、彼が後継者としている氏頼(彼は導誉の娘婿です)に執事をさせるだろうと読んでました。それで始めて幕政は安定すると考えていたのです。  ところが、上述した理由で義将が執事となり、家政は義将、国政は高経自らが見る形になってしまっては、氏頼を通して自らの意志を幕政に関与させることができなくなってしまいました。彼は武家の意向を朝廷に奏上する役目を負っており、さらには赤松則祐に娘を娶らせました。同様に足利尾張守高経が帰参したての折には氏頼に娘を娶らせて自らの閨閥を形成して幕府に影響力を確立しておりました。故に、細川清氏を追い出すという荒業を使うことができたのです。ところが、足利尾張守家に嫁をやったとはいえ、その惣領が執事の父として、一門衆筆頭として幕閣中枢に入ってしまって、導誉の高経に対する優位は完全に崩れてしまいました。  当然、導誉は氏頼を通じて圧力をかけますが、氏頼は高経に対する交渉カードを持っておりませんでした。弟だけなら対抗できたかも知れませんが、弟の背後には父がいるのです。かくて、足利尾張守氏頼は実父と岳父との板挟みになり、若狭国守護を辞して出家遁世することとなりました。導誉のように出家しても現役のままでいるのではなく、世捨て人となって近江の寺院に引きこもったのです。高経から見れば、親の心子知らず、と言ったところですが、氏頼からすれば、実父と岳父との対立は可能な限り避けたかった筈です。彼の引退はそれが不可避であることを悟ったことが原因でありましょう。その意味で、優しすぎたと評価できるかも知れません。氏頼は直冬と同類です。こういう詰めの甘い性格の人物が足利一門には多いですね。  結果として、氏頼が担当していた役職は高経預かりとなりました。そして、家督は執事たる義将に与えざるを得ない状況となったのです。そうなると、義将は後々足利尾張守家だけではなく、将軍の藩屏たる一門衆筆頭の後継者となるわけです。そうすると、執事は足利将軍家の内々の家政のみを見るのであるとは言ってられなくなりました。仁木頼章や細川清氏がやっていたようなに、将軍代行を一手に引き受ける形にせざるを得なくなってしまったのです。執事の職分は広がったまま常態化してしまったわけです。それは執事という役割自体を見直す契機となりました。

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