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2020年2月 1日 (土)

中漠:善人令和編⑥不殺の行く末


 歴史考察における見立てというのは弊害もあるのですが、使い出のある方法論です。ここでいう見立てとは、既存の別の物語におけるキャラクターやストーリーを史実に当てはめて理解するやり方です。利点としては複雑な事件などの背景を既存の物語の構図に当てはめることによって、わかりやすく説明できることが挙げられます。反面、それは一面的な理解となってしまって重要な史実を見落としてしまうことや、見当はずれな理解となってしまうリスクもあります。三好氏の研究は最近進んでいるものの、織田信長が登場する以前の戦国史は未整理な部分も多く、暫定的な理解を得る手段としてこうした見立てを使ってみることも、リスクを自覚した上ではありなのではないかと考えています。

 三好長慶を物語の登場人物の類型に当てはめると、その属性として「不殺」が浮かび上がります。いやいや、三好宗三を殺したやんけ、というツッコミもありなんですが、実際に宗三を討ち取ったのは遊佐長教軍です。太平寺合戦においても三好軍は活躍したのですが、実際に敵将木澤長政を討ち取ったのも遊佐軍でした。無論三好長慶率いる三好軍は強いし、故に細川晴元も長慶を遠ざけつつも彼を使わざるを得ませんでした。しかし意外なほど長慶は敵将を討ち取っていません。後々政権を担うことになっても、政敵となった足利義藤(義輝)や、細川晴元を滅ぼそうとしない微温的な態度を貫いています。

 強いけど「不殺」。この類型には、るろうに剣心の主人公緋村剣心が真っ先に思い浮かぶのですが、本稿の趣旨的には少し古くてマイナーな「トライガン・マキシマム」という漫画にでてくるバッシュ・ザ・スタンピードを紹介したいと思います。話を大幅に端折って紹介するなら、移民宇宙船が事故で辺境惑星に漂着します。その過酷な環境下では国家の保護はもちろんなくて法も機能せず、生き延びるために無法もまかり通る有様です。まさに西部劇のような状況下で愛銃を引っ提げて無法者と戦う凄腕のガンマンであるバッシュ・ザ・スタンピードの活躍を描いた物語です。彼はとある事件に巻き込まれて街の善良な人々を死に追いやってしまった過去を持ちます。それは彼に非は全くない事件ではあるのですが、その惨禍のすさまじさから彼には「暴走(スタンピード)」という二つ名がつけられるのですね。彼はそれを自らの罪として背負って「不殺」の生き方を選び、それを貫き通します。その姿が三好長慶に被るのです。

 三好長慶が歴史の舞台に登場した時、三好家には大変な悪評がついて回っていました。これは彼の曽祖父の三好之長のせいです。曰く彼は応仁乱中に洛中で略奪し、寺社仏閣や焼きまくった細川政元の片棒を担ぎ、京を何度も侵略した極悪人という感じです。しかし、応仁乱中の略奪は他の部隊もやっていて、寺社仏閣の焼き討ちもやっていたのは細川政元配下の赤澤宗益です。三好之長は赤澤宗益と一緒に一度だけ大和・河内で戦っただけです。京への侵略については之長に言わせると主君細川澄元から管領の座を奪った細川高国の方が簒奪者です。しかし、運の悪いことに最終的に三好之長は細川高国に敗北して捕らえられ、彼の主君細川澄元も後方で病死します。細川高国の勝利であり、虜になった三好之長は高国の勝利の象徴でした。細川高国は自らの正当性を主張するために三好之長を実態以上に悪魔化して喧伝しました。この風評被害を受けたのが之長の孫(長慶の父)の元長でした。
 彼は丹波国人衆が細川高国と対立した折に、丹波国人の要請に従って畿内入りしたのですが、細川高国の宣伝のせいで畿内国人衆に嫌われぬいていました。元長は祖父の仇である細川高国を討ち取り、三好軍の強さを誇示しましたが、逆に細川六郎の祐筆である茨木長隆に本願寺門徒軍団を差し向けられて滅ぼされてしまいました。

 三好長慶の歴史デビューはこの父三好元長を滅ぼした三好家に対する悪評への対処からでした。しかも、父親が死んだ直接の原因となった本願寺教団とその時父親が攻め滅ぼそうとしていた木澤長政、父親を見捨てた細川六郎らとの和議を整えることが、彼に課された初任務だったわけです。三好長慶はこの親の仇達に対して私情を捨ててことに当たりました。しかも、彼は摂津国の西端の越水に封じられて政権中枢から外されています。普通だったらブチ切れるところですが、三好長慶はそれに耐え、武威を示しつつも仁者であろうとしました。三好長慶の仁者への道には気の遠くなるほど数多くの困難が待ち受けており、彼はそれを信じがたいペースで克服していきます。

 「トライガン・マキシマム」には、バッシュ・ザ・スタンピードといういわれのない罪を背負った善人の傍らで彼の行いを偽善と糾弾する登場人物が現れます。その人物は物語の終盤で非業の最期を遂げるわけですが、三好長慶の人生にも彼と同じ役回りを果たした人物がいたと私は見立てております。次稿でその人物を紹介したいと思います。

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